目黒 実の願い
ボクが子どもたちに少し役立つことをしたとすれば、サリンジャーのライ麦畑の「つかまえ役、子守り役」の気分で、チルドレンズミュージアムをつくってきたことでしょうか。そう、日本で初めてつくった福島県霊山町の『遊びと学びのミュージアム』、兵庫県篠山市の『チルドレンズミュージアム』、沖縄県沖縄市の『ワンダーミュージアム』のことです。
その時にもうひとつ考えたことは、新しい場所に新しいミュージアムをつくるのではなく、これからのボクたち自身の、地域社会の、日本というクニのテーマが 「Re=再生」だとすれば、その旧い学び舎や文化施設のつくられた時代と生活の記憶を掘り起こし、その場所で遊び、学んだ人々の成長と飛翔に想像力を馳せ ることだろう、と。ですから霊山町の場合も30 年経って老朽化した「こどもの村」をリニューアル、リデザインすることとして捉えました。篠山市は、廃校になった中学校を何ひとつ壊さず、そっくりそのま まチルドレンズミュージアムとして生き返らせることでした。沖縄市の「こどもの国= 動物園」も、施設として旧くなり、資金的にも組織的にも立ち行かなくなった場所を、未来形の動物園として位置づけ、子どもたちに夢を与える米軍所在地市町 村活性化事業として、沖縄に責任を持つ内閣府とともに「Re=再生」させることでした。
それらのチルドレンズミュージアムが、果たして現代の子どもたちの「つかまえ役、子守り役」になり得ているかどうか。ボクとしては、時々にその場所を訪 ね、子どもたちと話し合い、そこで働く人々と議論し、ボランティアの方々とよもやま話しをすることで、その確認をすることにしています。ミュージアムの語 源は「ムセイオン」。 ギリシャ人たちは、多くの女神達が集まり、侃々諤々(カンカンガクガク)、喧々囂々(ケンケンゴウゴウ)、議論し、対話する場所を「ムセイオン」と名付け ました。そこから哲学が誕生し、芸術が立ち上がり、科学が興り、医学が発達したのだと思います。「ムセイオン」とは、「ミュージアム」とは、対話する場 所、複数の女神たち、思弁するテーマ、そして、それを世界に解き放ち、船出させ、魅力的な意匠によって展示= 実現しようとする努力と方法のことなのです。
これからも国内外のミュージアム行脚を続けつつ、現在所属している九州大学ユーザーサイエンス機構の子どもプロジェクトの旗振り役として、実践的な「子ども未来学」を 構築しつつ、普遍的な子どもたちの居場所としての、チルドレンズミュージアム、チルドレンズライブラリー、チルドレンズシアターをつくっていきたいと思い ます。また、求められればサーカスのようにこちらから魅力的なコンテンツを携えて出掛けていく移動型のチルドレンズミュージアムや絵本カーニバルを、子ど も病棟から退院できない子どもたち同士の激励型ネットワークと、ウェッブ上で愉しめるチルドレンズミュージアムを、考えていきたいと思います。
さらに、子どもたちの集う第三の居場所としてのチルドレンズミュージアム、また、医療、司法、福祉の現場、 美術館、博物館、科学館などで、子どもに関わる人たちのための斬新な教育カリキュラム、ワークショップ・プログラム、キャリアパスをつくっていきたいと思 います。しかも、それを高い理念を持った複数の大学、ミュージアム、NPO、民間企業などとの協働としての社会人向け専門職大学院として実現し、旧来の教 える、教えられるという関係性を超えて、無機質な教室という場所ではなく、集中講義やワークショップのできるステキな空間、子どもたちの集うさまざまな現 場で、そしてまた、PC やiPod をフル活用したデジタル上でアクティブに展開できないかと構想しています。
チャイルド・ライフ・スペシャリスト、チャイルド・ライフ・ファシリティーター、チャイルド・ライフ・プランナーと は、21 世紀という新しい時代に対応した、画期的な理念、ポジション、役割を担った先駆的な仕事だと思います。子どもたちの生命と尊厳とアイデンティティを使命感 としてだけでなく、仕事として守りきる、それはとても魅力的な「つかまえ役、子守り役」ではないでしょうか。
上記のチャイルド・ライフと呼ばれる人々が、医療、司法、福祉の現場はもちろんのこと、美術館、博物館、科学館、図書館、あるいは絵本カーニバル、冒険遊 び場、出版社、メディア、そして各地のストリートやアベニュー、世界の子どもたちの声なき声の聴こえるすべての場所に、海を越え、国境を越えて赴任し、子 どもたちと帆走して欲しい、というのがボクの願いです。
九州大学 ユーザーサイエンス機構
特任教授 子どもプロジェクト主宰
目黒 実東京生まれ。
日本初のチルドレンズミュージアムを1994 年福島県霊山町でプロデュース。
その後、兵庫県篠山市で廃校になった中学校を、沖縄市で は、老朽化した『こどもの国・動物園』をチルドレンズミュージアム、チルドレンズセンター、動物保護センターとして再生する。現在、九州大学ユーザーサ イエンス機構特任教授・学術研究員として子どもプロジェクトを主宰。新しい子ども学の構築、子どもの居場所づくり、子ども向けコンテンツ、子どもに関わる人たちの専門職大学院の設立活動などを行っている。

九州大学 ユーザーサイエンス機構